第74回 罠のある『お金持ち本』には、正論の海の中に小さな毒針が隠されている

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私は今でも最新のいわゆる『お金持ち本』はチェックしています。これは、私自身の見聞を広めマインドを常にブラッシュアップするのが目的です。しかし、たまに密かに罠が仕掛けられた「お金持ち本」に出会うこともあります。

ちなみに「お金持ち本」が、著者側のビジネスに読者を誘導しようとすること自体は否定しません。なぜなら、それが読者(お客)にとって有益なサービスなら何の問題もないからです。

そうではなく、明らかに間違った方向 = 明らかにお客にとって害のある事を、こそっと正論の中に目立たないように混ぜている悪質なケースが現実にある、という事です。最近そのような疑いが濃厚な(おそらく女性向けに書かれた)ある『お金持ち本』に私は出会いました。

この本のほとんどの内容は本当に素晴らしいものでした。もちろん章によっては軽い違和感がない訳でもなかったですが、それは「私自身に足りない所があるからに違いない」と私はむしろ素直に謙虚に反省して「頭を柔軟にして学ばねば!」と、私自身を叱咤激励しながら読み進めておりました。(つまり私はこの本に対して最初は極めて好意的であり肯定的でした)

しかしこの本の中の、投資で勝つにはどうしたらいいかについて記述されている章まで読み進めた時に、ついに私は決定的な文言に出くわしてしまいました。

投資経験がまったくない主人公の若い女性に、彼女のメンターである登場人物の老億万長者は(インデックス投資については一言も触れることなく)なんといきなり FX を推奨した!!!のです。

さて、ここでご存じない方のために FX について説明します。

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FX とは日本語では「外国為替証拠金取引」と言います。これはたとえば米ドルの価格変動を予測して米ドルを買ったり売ったりし、利益を得ようとする行為です。わずかなお金を「証拠金」として納めるだけで大きい金額の取引ができ、日本国内では自分の手持ち資金の最大25倍の金額を取引することが可能(これを「レバレッジをかける」と言います)なので少ない元手でも当たれば一気に資金は膨れ上がります。が、外れれば一気に手持ち資金が吹っ飛び、最悪借金だけが残るケースもあり得るという極めてリスクの高い、いやハイリスクというよりも極めてハイデンジャラスな取引です。

FX はゼロサム・ゲーム(誰かが儲かった分、きっちり誰かが損をするゲーム。つまり純然たる参加者同士のお金の奪い合いゲーム)でもあります。いや取引手数料を考えれば厳密にはマイナスサム・ゲームです。つまり期待値がマイナスです。これは(数学的には)長くやればやるほどお金が限りなく減っていくと言うことであり、まさに博打の本質そのもの(胴元だけが儲かる)です。もちろん、ごく少数の天才は勝ち続けて大儲けするでしょう。しかしこの天才と言えども、たとえば仮に10回連続勝負したとして、スタート直後に幸運にも9連勝できたとしても、最後10回目の勝負で唯一たった1回負けただけで全てを失う。これがレバレッジを大きくかけた短期トレードの恐ろしさです。

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さて、FX というものをご理解いただけたところで話をもとに戻しましょう。

登場人物の老億万長者がした『 FX を推奨する』という行為は、言わば生まれて初めてギャンブルしてみようとラスベガスにやって来て「まずはちょっとスロットマシンでも楽しんでみようかな?」と考えていた経験ゼロの若い女の子を(大げさに言えば)賭ケグルイに登場する恐ろしいギャンブル『生か死か』にいざなうような、極めて悪質で罪深い行為だということがご理解いただけたでしょうか。私がこのくだりを読んだ瞬間、この本とこの著者に対して私が持っていた信頼感は一瞬で木っ端みじんに吹き飛びました(笑)

さて、もはやこの本に策意があることには疑いの余地がなかったので、その後は全てを疑いの目で読み進めました。すでに読んだ部分も批判的に見返しました。ほとんどの内容は、私自身も納得の正論で埋め尽くされています。しかし表現の微妙な調整によって読者に対して巧妙にバイアスをかけているのが確かにうかがわれました。

とりわけ「節約」を完全否定しているところ(この老億万長者が経営する会社では経費節減の努力はしないのだろうか?)あるいは女性の皆様の欲求(高価な物や高価なお洋服を買いたいとか、高級な旅行を楽しみたいとか)をあまりにも無条件に奨励し過ぎるあたりには(確かにこの本の言い分も分からなくはないですが)世の女性の皆様を幻惑し、その心をうまくつかんでやろうとするずるい意図を感じました。

とは言え、題名(『職業、◯◯◯◯。』)が秀逸な本だけに、そしてそのほとんどの内容が素晴らしい本なだけに、本当に残念でなりません。しかし、特に女性の皆様にはぜひ注意喚起したいです!

この本の題名を完全にはっきりとここに書いちゃうと私が誹謗中傷で訴えられかねない(根拠を示しているので誹謗中傷には当たらず、正当な批判だとは思いますが)ので完全には書きません。それでも私の以上の記述をヒントにしていただければ、実際にこの本に出会ってしまった時には皆様確実に気づけると思います。

はっきり言ってこの本はかなり良く書けてます。文章も秀逸です。私の目から見ても「一理ある」内容も沢山あります。私自身も大いに共感する内容がいっぱいあります。だから一見とても素晴らしい本に見えます。アマゾンのレビューでも高評価です。だからこそ女性の皆様にはくれぐれも気を付けていただきたいのです。

結論

この本の巧妙に隠された真の目的は、読者(メイン・ターゲットは女性)を FX 取引、さらに恐らくは信用取引にも誘導する事であると現時点私は結論しております。さらにこの本は「証券会社を大いに頼ること」も勧めています。もしも私が楽天証券や SBI証券その他の大手証券会社の営業部長なら、会社の利益のために自らの職務・職責として、この本を積極的に応援し推奨するでしょう。

もちろん楽天証券と SBI証券については長期投資用の口座を持つための証券会社としては優良です。現に私も楽天証券ユーザーです。

しかし彼ら(楽天証券や SBI証券)とて、現実の儲けの中核は FX取引や信用取引その他取引の売買手数料収入であり金利収入です。あなたが将来本気でお金持ちになりたいのなら、くれぐれもそっちの側の『いいお客』になってはいけません。絶対にです。

(文: UEDA / 挿絵:αβγ)


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